「一番おいしかったお菓子は何ですか?」
仕事でたくさんのお菓子を作り続けてきて、本当によくいただいた質問です。
ケーキでしょうか。
焼き菓子でしょうか。
それとも特別な日に食べるお菓子でしょうか。
でも、この質問にお答えするとき、私は少し考えてしまいます。
なぜなら、「一番おいしいお菓子」は、一つではないからです。
〜技術だけでは「一番」にはならない〜
パティシエになったばかりの頃は、技術がすべてだと思っていました。
きれいに仕上げること。
正確に焼くこと。
同じ品質を保つこと。
もちろん、それは今でも大切です。
けれど長年お客様と接していると、「おいしかった」の理由は、それだけではないことに気づきました。
〜記憶に残るのは、その日の出来事〜
「子どもの誕生日に食べました。」
「久しぶりに家族が集まった日でした。」
「仕事を頑張った日のご褒美でした。」
お客様は、お菓子の味だけではなく、その日のできごとを一緒に話してくださいます。
つまり、お菓子は思い出の一部になっているのです。
〜香りは、記憶をやさしく呼び起こします〜
焼き菓子の香りには、不思議な力があります。
オーブンから漂うバターの香り。
焼きたての甘い香り。
植物のやさしい香り。
ふとした瞬間に、
「あの時のお菓子だ。」
と思い出すことがあります。
私自身も、焼き上がる香りを感じるたびに、これまでのたくさんの時間を思い出します。
〜家で食べるお菓子には、特別な魅力があります〜
豪華なお菓子だけが心に残るわけではありません。
休日の午後。
家族とお茶を飲みながら食べたクッキー。
少し焼き色が濃くなった手作りのお菓子。
そんな何気ない時間ほど、あとから思い返すと温かい記憶になっていることがあります。
〜ハーブは、思い出にそっと寄り添います〜
ハーブスイーツも、私は同じだと思っています。
植物の香りが主役ではありません。
その日のお茶の時間。
誰かとの会話。
静かな午後。
そんな時間に、そっと寄り添う存在です。
だから私は、ハーブを「特別な素材」としてではなく、「暮らしを少し豊かにする香り」として大切にしています。
〜お菓子を作り続けて、今思うこと〜
「一番おいしいお菓子は何ですか?」
改めて聞かれたら、私はこうお答えします。
一番おいしいお菓子は、
誰かと笑いながら食べたお菓子です。
あるいは、
自分自身が、ほっと一息つけた日に食べたお菓子です。
技術だけでは作れない味があります。
材料だけでは生まれないおいしさがあります。
コツコツとお菓子を作り続けてきて、今はそう思っています。
だから今日も私は、お菓子だけではなく、その時間まで届けられるような一品を焼きたいと思っています。
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