長い間お菓子を作り続けてきました。
振り返れば、本当にたくさんのお菓子を焼いてきました。
新しいレシピに挑戦した日。
思いどおりに焼けて嬉しかった日。
失敗して落ち込んだ日。
その一つひとつが、今では静かな思い出になっています。
でも30年という時間を歩いてきて、一つだけ、はっきりと分かったことがあります。
私は、お菓子そのものが一番好きだったわけではありませんでした。
〜好きだったのは、台所に流れる時間でした〜
粉を量る音。
ボウルを混ぜる手の感覚。
オーブンの中で少しずつ色づいていく焼き菓子。
部屋いっぱいに広がる甘い香り。
そのどれもが、お菓子を作るためだけの時間ではありませんでした。
私にとっては、暮らしを取り戻す時間でもありました。
〜お菓子は、人を急がせません〜
仕事には締め切りがあり、
生活には予定があります。
世の中は、いつも少し急いでいます。
でも、お菓子は違います。
オーブンの前では、待つしかありません。
生地は、急かしても早く焼けてはくれません。
私は、その「待つ時間」に何度も救われてきました。
〜ハーブは、もっとゆっくりでした〜
ハーブと出会ってから、その思いはさらに深くなりました。
植物は、思いどおりには育ちません。
季節を待ちます。
雨を受け入れます。
風に揺れます。
その姿を見ているうちに、私も「急がなくてもいい」と思えるようになりました。
だからハーブスイーツは、お菓子である前に、暮らし方を教えてくれる存在になりました。
〜お客様が教えてくださったこと〜
お客様とお話ししてきて、一番心に残っているのは、お菓子の感想ではありません。
「今日は家族とゆっくり話せました。」
「焼きたてを食べながら笑いました。」
「なんだか心が落ち着きました。」
そんな言葉でした。
そのたびに私は、お菓子が届けているのは甘さではなく、時間なのだと教えられました。
〜昔の私は、知らなかったこと〜
以前の私は、おいしいお菓子を作ることだけを考えていました。
でも今は違います。
お菓子は、暮らしの真ん中にあるものではありません。
暮らしをやさしく照らす、小さな灯りのような存在です。
だから、完璧でなくてもいい。
少し形が違ってもいい。
そのお菓子を囲んで笑える時間があるなら、それだけで十分だと思えるようになりました。
〜私はおそらく、これからも焼き続けます〜
毎日毎日お菓子を作り続けてきました。
そして、これからもきっと焼き続けるのだろうと思います。
誰かに認めてもらうためだけではありません。
もっと上手になるためだけでもありません。
台所へ立つと、心が少し静かになるからです。
焼き上がる香りを吸い込むと、「今日も悪くない一日だった」と思えるからです。
家族とお茶を飲みながら、「おいしいね」と笑える時間が好きだからです。
結局、私が30年間で一番好きになったのは、お菓子ではありませんでした。
お菓子を通して育っていった暮らしでした。
だから今日も、私は静かにオーブンの扉を開けます。
その先にある穏やかな時間を、これからも大切に育てていきたいと思っています。
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